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３１話　「怖いけど、お兄ちゃんがいるから」エリゼの信頼

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2025-11-16 06:00:49

「移動しますか……。勘付かれたっぽいからな」

　リーダー格の男がそう呟くと、男たちは懐からキラキラと光る石を取り出した。その石から放たれる不気味な光が、レイニーたちを囲むように魔法陣を浮かび上がらせる。空間がグニャリと歪み、次の瞬間、二人は別の建物へと移動していた。

　そこは動物臭が漂い、木造で薄暗い。王都から離れた場所なのか、周囲はしんと静まり返っていた。ひんやりとした空気が肌を撫で、どこからか獣の鳴き声が微かに聞こえる。

　あらら……転移？　転移されちゃったじゃん……。これじゃ、複数いた監視がまかれちゃったんじゃないの？　レイニーは、頭を抱えたくなる衝動に駆られた。それにしてもエリゼは落ち着いてるね……。自分が置かれた状況を理解していないのかな？　頭は良さそうだけどなぁ、俺たち誘拐されてるんだよ？？　レイニーは隣のエリゼの表情を伺い、その能天気さに少しだけ安堵しつつも、内心では焦燥感を募らせていた。

「お前ら、ここで大人しくしてろよ？」

　リーダーっぽい男が、ニヤけた顔で話しかけて来ると、重い足音を立てて部屋から出て行った。その足音は、レイニーの心臓に響く。

「分かるよな？　頭良さそうだしよ！　大人しくしてろな……じゃないと、痛い目にあうからな！」

　続いて、下っ端の男が顔をしかめ、いかにも悪党といった面構えで威圧的に言ってきた。その言葉には、粗暴な力が込められており、レイニーは思わず身構えた。リーダーに続いて部屋を出た。

「まあ、念のため拘束させてもらうけどな」

　残された悪党面の下っ端がそう言うと、持っていた縄を素早く扱い、レイニーとエリゼの両手両足を縛り上げた。縄が肌に食い込み、チクリとした痛みが走る。男たちは、満足げな顔で別の部屋に行ってしまった。その足音は、遠ざかるにつれて、レイニーの不安を増幅させた。

「エリゼ、落ち着いてるね？　怖くないの？」

　レイニーは、繋がれた体でエリゼに問いかけた。

「ん……少し怖いけど、あの人たちより……お父さんが連れて来る人のほうがコワイかな。それに……お兄ちゃんが一緒だし……大丈夫かな♪」

　エリゼはレイニーを見つめ、ニコッと微笑んだ。その純真な笑顔に、レイニーの心臓がキュッと締め付けられた。これは、守り切らないとだよね！　いざとなれば、魔法もあるし……非常事態になれば、あーちゃんに手伝ってもらおーっと♪　レイニーは内心で決意を新たにした。

　それにしても、面白いモノを見せてもらったなぁ。転移かぁ～すごぉーい！　そんなもの見せられちゃニヤけちゃうじゃんっ！　レイニーは、この絶体絶命の状況下にもかかわらず、自身の好奇心を抑えきれずにいた。

　エリゼに、かなり信頼されちゃってるみたいだね〜どーしよー？　エリゼと一緒に縛られていて……これじゃ、あーちゃんと話もできないじゃん。

　あーちゃんに、この場所がどこか聞きたかったのになぁ〜。レイニーは、どうにかしてあーちゃんに状況を尋ねたいと強く念じた。

「……えっとですね、王都内の森の近くの小屋ですね」

　突然、あーちゃんの声がレイニーの頭の中に直接響いてきた。その声は、まるで脳内に直接語りかけられているかのように鮮明だった。

「あーちゃん？」

　ビックリしながらも、レイニーは頭の中で確認をした。

「なんですか？」

「なんですか？　じゃないよぉー、もお！　こんなのが使えるなら教えてよ〜」

　レイニーは呆れたように心の中で返した。

「使ったのは……レイニー様じゃないですかぁ……。悪魔同士なら使えますが、レイニー様も使えたのですね〜……レイニー様って……悪魔の血でも引いてるのですか？　それとも、もっとすごい……」

　あーちゃんの声には、驚きと困惑の色が混じっていた。

「はぁ？……人間ですっ！！　……たぶん。俺が伝えたいと強く念じたから届いたのかもね〜。新スキルゲット♪　えへっ」

　レイニーはそう言って、心の中で小さくガッツポーズをした。王都内なら見つけてくれるでしょ。監視役が撒かれて大騒ぎになってると思うし……たぶん。騎士団長が命じた監視役だったらだけどねぇ……レイニーは、いつもの楽観的な思考で状況を判断した。

♢王都の非常事態

　その時、外がにわかに騒がしくなり始めた。足音が複数聞こえ、男たちが兵士の服装から一般人の服装に着替えて戻ってきた。彼らの顔には、焦りの色が浮かんでいる。その慌ただしい足音は、レイニーの耳に不穏な響きをもたらした。

「おい、移動するぞ。足の縄を解くから自分で歩けよ！」

　男の一人がそう言い放ち、手早くレイニーとエリゼの足の縄を解いた。縄が解かれると、血が通い始めた足にジンと痺れが走る。

　外に出ると、幌付きの馬車が用意されていた。辺りは、民家がなく自然が多い場所だった。吹き抜ける風が、王都の喧騒とは異なる森の匂いを運んでくる。

　この感じからすると、王都の端の方の土地かな。転移で王都内外の行き来は、できないようになっているっぽい。そりゃそうか……自由に行き来できちゃったら、敵も自由に入れちゃうからね。ということは……王都から出るとすれば、普通は荷物検査があるはずなんだけど。

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